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知られざる!? 台湾クラシック音楽文化の世界

【盧易之】台湾人ピアニスト盧易之(ルー・イチュ)「編曲」の魅力たっぷり!ピアノリサイタル

「編曲」と聞くとジャズやポップスをイメージする人が多いかもしれません。

実はクラシックピアノによる「編曲」にはすでに長い歴史があり、有名な作曲家リストも、自身のオリジナル曲以外にたくさんの編曲作品を残していることが知られています。ピアノ音楽がお好きな方は、編曲作品も鑑賞したことがあると思います。

今回ご紹介する盧易之(ルー・イチュ)さんは、台湾民謡の編曲にも定評がある台湾の人気ピアニストです。今年2024年は「改編的藝術」(編曲の芸術)をテーマに据え、編曲作品を集めたピアノリサイタルを行いました。

コンサートレポート

2024盧易之鋼琴獨奏會《改編的藝術》YI CHIH LU 2024 PIANO RECITAL

日時:2024年6月25日19:30

会場:國家音樂廳

ピアノ:YAMAHA CFX

今回のリサイタルはYAMAHAがスポンサーの一つで、演奏にはYAMAHAのコンサートグランドピアノ「CFX」が使われました。ちなみに中国語でヤマハ「山葉」(シャンイェ)といい、もちろんここ台湾でも抜群の知名度を誇ります。

盧易之さんの台湾民謡の編曲版はYouTubeで40万回近く再生されているものもあり、人気YouTuber江老師(ジャンラオシー※)とコラボした人気動画もアップされていることなどから、ピアノを学んでいる若い層からも人気が高く、会場には小学生や中学生のお客様も多かったです。当日はCDと盧易之さんの編曲楽譜も販売され、たくさんの人が手に取っていました。

(※YouTuber江老師 ジャンラオシーについてはこちら👇)

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本日のピアニスト🎹盧易之(ルー・イチュ/Lú Yìzhī)

1982年台北生まれの盧易之さんは5歳からピアノを始め、10代でヨーロッパに渡り研鑽を積み、オーストリアのウィーン国立音楽大学、またドイツのベルリン芸術大学でピアノを学びました。学生時代から数多くのコンクールで上位入賞を果たしており、2007年の第3回仙台国際音楽コンクールでは第2位に入賞しています。

国際的な演奏活動を活発に行う傍ら、ブラームスショパン、また台湾の作曲家などの作品を収めたCDアルバムを複数リリースしており、2012年には台湾で最も権威のある音楽賞「金曲獎」(きんきょくしょう)の最優秀演奏賞を受賞しました。

コロナ禍を経て実現した2022年のカーネギーホールでの演奏会では、ショパンなどヨーロッパの伝統的クラシック音楽に加え、自身の編曲による台湾民謡も披露しています。現在は国立台北芸術大学でピアノ指導にもあたっており、演奏、創作、教育と幅広く活躍しているピアニストです。

盧易之さんと編曲、台湾民謡

小さな頃から、生活の中で耳にした音をピアノで表現しては達成感を得ていたという盧易之さん、ピアノの課題曲以外に、編曲や即興演奏をするのが大好きだったそうです。その後クラシック音楽を極めていくうちに編曲の奥深い魅力を知り、台湾民謡の編曲も手がけるようになりました。

台湾民謡とは、台湾人なら誰もがどこかで聞いたことがある懐かしい旋律の楽曲、歌謡曲のことで、台湾人のこころの歌とも言えます。その中には『雨夜花』、『望春風』など海外で有名な曲もあり、日本ではテレサ・テンさんや、台湾にルーツのある歌手である一青窈(ひととよう)さんにもカバーされています。

盧易之さんはそれらの名曲をピアノ曲に編曲し、その新しい魅力を様々な世代に届けています。今年、2024年の「金曲獎」では最優秀編曲賞を獲得しました。

ピアノならではの美しさが感じられる編曲や、弾けるようになって思わず自慢したくなってしまうようなかっこいい編曲もあり、原曲を知らない若い世代にも編曲版台湾民謡は大人気です。実際にピアノ発表会で演奏されたりもしているようです。出版されている楽譜は簡易版も作られ、若いピアノ学習者もチャレンジできるようになっています。

台湾民謡の編曲のアルバムは下からご試聴下さい。

www.youtube.com

編曲は台湾民謡にとどまらず、こちらはバッハ「音楽の捧げもの」の編曲版です。

www.youtube.com

本日のプログラム

リスト編:リゴレットパラフレーズヴェルディ) S.434 R.267

リスト編:歌劇 ファウストのワルツ(グノー) S.407 R.166

ブゾーニ編:シャコンヌ(バッハ) ニ短調 BWV 1004

チェルニー編:フィガロの結婚モーツァルト)からの動機による華麗な幻想曲 Op.49

盧易之 編:3曲の台湾民謡『補破網』、『黃昏的故郷』、『丟丟銅仔』

ゴドフスキー編:こうもり(J・シュトラウス2世)の主題による交響的変容

本日のアンコール

吉松隆 編:アヴェ・マリアカッチーニ

シフラ編:ハンガリー舞曲第5番嬰ヘ短調ブラームス

盧易之 編:『桃花過渡』(台湾民謡)

アンコールまで編曲づくしのプログラムでした。ピアノの脇にはマイクが置かれていて、盧易之さんによる曲の解説やトークを挟みながら和やかに進行されました。元になったオペラのストーリーをわかりやすく説明してくれたり、ジョークを交えて笑いが起きたり、お話からは盧易之さん優しいお人柄も伝わってきて、終始アットホームな感じのリサイタルでした。

リストに始まり、どの曲目も華麗で繊細、柔らかな音から力強い音まで、華のある演奏でした。編曲作品は、原曲を新たな角度から見つめ直し生み出されたものですが、それらを解釈し演奏で魅力を引き出すところにも、編曲に精通している盧易之さんの真骨頂が感じられました。

3曲披露した台湾民謡は新しい編曲版で、このコンサートで初めて披露されました。盧易之さんによると、台湾民謡の編曲で難しいところは、元になる民謡がとても短いことだそうです。口ずさみやすい同じメロディーの繰り返しが民謡の特徴とも言えますが、中には15秒ほどの短いフレーズのものもあるのだそうです。これを数分のピアノ曲に編曲するには相当のテクニックやセンスが求められるかと想像します。

ヨーロッパの作品に挟まれる形で披露された台湾民謡の編曲版ですが、どれもとても華やかで耳に心地よく、欧州でクラシックピアノを極められた盧易之さんならでは、さすがの編曲作品でした。民謡に昔ながらの旋律のイメージを強く持つ方は、ぜひ一度YouTubeで盧易之さんの作品を聴いてみて下さい。編曲で新しく生まれ変わった美しいピアノ作品にきっと驚くはずです。

新曲3曲目の『丟丟銅仔』は宜蘭(イーラン)というところの童謡で、リズミカルなメロディが特徴です。盧易之さんの合図で会場が合唱し、会場のお客様と一緒に演奏を完成させるという趣向もありました。地元台湾のピアニストならではのお客様とのインタラクションで、雰囲気と居心地のいい演奏会でした。

サイン会も大盛況!

私は今回のリサイタルを通して初めて知った編曲作品もあり、家に帰ってから色々調べて聴いてみたりして、その後の鑑賞も楽しみました。編曲の面白さや、台湾音楽の魅力も再発見できた貴重なピアノリサイタルでした。

 

本日の中国語キーワード

盧易之:Lú Yìzhī(お名前の台湾式表記はLu Yi Chih)

※発音は「ルゥイージィ」に近いと思います。日本のコンクール記録に「ルー・イチュ」とあったので、記事内ではそちらを使いました。

金曲奨金曲獎 jīnqǔjiǎng

台湾民謡:台灣民謠 táiwān mínyáo

編曲:改編 gǎibiān

『雨夜花』:yǔyèhuā(テレサ・テンのカバーは「雨の夜の花」)

『望春風』:wàngchūnfēng(『雨夜花』と並ぶ代表的な台湾民謡)

『補破網』:bǔpòwǎng

『黃昏的故郷』:huánghūndegùxīang(三橋美智也の『赤い夕陽の故郷』)

『丟丟銅仔』:diūdiūtóngzǎi

『桃花過渡』:táohuāguòdù

 

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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